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クルマ・バイク工学

キャスターとトレール

○公開:2012-12-27 ○修正:2017-03-08

本記事は自分で読み返す度にもっと判りやすい書き方があると感じ、何度も修正している。最終修正日は上のとおりだが、これがファイナルアンサーとなればよいのだが・・・

「キャスター」とバイクの共通点

2輪車のフロントホイールは皆、斜め前に付き出したフォークの先に付いている。これが直進安定性を生むと言うのだが、台車やオフィスチェアなどに付いている「キャスター」(右図)を見ていると逆のような気がしないだろうか?

右図がバイクの前輪だとすると、形状的には向かって左に進んでいるように見える。しかしその方向に台車を押すと、キャスターはクルッと回転して反対方向を向いてしまうだろう。逆に右に台車を押すとそのまま直進するはずだ。感覚的に言えば、台車が車輪を引っ張る方向だと安定する事が判る。

一方、本物の2輪車は右下の図のようになっている。進行方向は勿論向かって右だが、上のキャスターのケースに当てはめると不安定な方向に進んでいるように見える。なのに何故バイクは安定して直進できるのだろうか?

その鍵は、前輪が向きを変える時の回転軸(以下「転舵軸」)と、前輪の接地点の関係にある。

バイクの場合、転舵軸は勿論ヘッドチューブの中心軸だが、この軸は地面に対して傾いており(これがバイク用語で言うところの「キャスター(アングル)」)、下に延長すると前輪の接地点より前で地面と交わる。

このように【転舵軸と地面の交点】が【車輪の接地点】より前にあれば方向は安定するのだ。もし逆なら不安定だ。尚、この両点の間隔を「トレール」と呼び、転舵軸の接地点の方が前ならトレールはプラス、その逆ならマイナスとする。

台車のキャスターの場合も同じことで、転舵軸は台座に取り付けられたボールベアリングの回転軸だ(地面に対して垂直)。よって図の右に進んだ場合、転舵軸と地面の交点は車輪の接地点より前(トレールがプラス)なので安定する。

判りやすいように、バイクの図全体をキャスター角θだけ右に傾けてみると、転舵軸は垂直になり地面は角度θの下り坂になる。これは台車のキャスターが上面を水平にしたまま坂を下っているのと同じ状態なのだ。これで何となく車体が車輪を引っ張っているというイメージが湧いたではないだろうか?

トレールが直進性を生む理由

という訳で、トレールがプラスだと車輪の方向が安定するということが直感的にわかったと思うが、ここでその理由をもう少し力学的に解説してみよう。

今バイクが直進していて、外乱(路面の凹凸など)によりタイヤを右に向ける力がかかったとする。この時、右図の転舵軸延長線Sを中心にタイヤは右に向き、接地点はP0からP1にズレようとしている(破線から実線に変化)。しかしタイヤにサイドスリップの力が加わると、摩擦力による反力が発生しタイヤを元の直進状態に戻そうとする。

そして、タイヤのズレ角が同じでも、トレールが大きいほどP0からP1への変位量が大きくなるので、より大きな力で押し戻す事になる。これが、トレールが大きいほど直進性が高くなる理由だ。ということは、直進性に寄与するのはあくまでトレールであって、キャスター角そのものではない

キャスターとトレールの微妙な関係

運動力学的な解説は以上だが、ここでキャスターとトレールに関してちょっと紛らわしい点について述べる。

上のバイクの図では、転舵軸、フォークの中心線、ホイールの中心が全て同一直線上にあった(ストレートタイプと呼ぶ)。しかし次に図示する現実のバイクでは、夫々少しづつ異なっている。

  1. 左端のケースはフォークの中心線がヘッドチューブの軸(転舵軸)より少し前に出ている。ロードスポーツバイクなら程度の差こそあれ皆こうなっていると思う。
  2. 中央はオフロードバイクでよく見かけるケース。ホイールの中心がフォークの中心より少し前にオフセットしている。(実際には転舵軸とフォークの中心も若干ズレているが、ここではわかり易く同一線上に配置した)
  3. 右端は、自転車のリジットフォークでよく見かける事例。転舵軸とフォークの中心線が平行ではない(フォークの方が少し寝ているか、前に向かって反っている)。

一見すると夫々違った意味があるようだが、どれもストレートタイプより前輪が少し前(向かって右)に出ている事が判るだろう(これをオフセットがプラスと呼ぶことにする)。その結果、どれもストレートタイプよりトレールが減少している。

前輪がより前にあるという事は、キャスターがより寝ているのと同じ効果に見えるかもしれないが、実は真逆なのだ。オフセットが増える(車輪が前にせり出す)ほどトレールは減少し、前輪の方向性は不安定(逆に言えばシャープなハンドリング)になる。

もしこれを読んで(見て)ちょっと混乱してきたなら、それはキャスター角とフォークの角度を混同しているからだろう。キャスター角とはあくまでも転舵軸の傾きであって、フォークの傾きのことではないので間違い無きよう。(※1)

因みに台車のキャスターでは、キャスター角はゼロだがオフセットがマイナスなのでトレールはプラスということになる。そして勿論、何れの場合も車輪の外径が大きいほどトレールも大きくなる(プラスになる)。

以上まとめると、トレールの大きさはキャスター角とオフセットそして車輪外径の3要素で決まる。方向性としては次の通り。

フォークを寝かし気味にトレールを少なめに

殆どの2輪車はオフセットがプラスになってるという事は、オフセットゼロだとトレールが大きすぎて、安定しているが鈍重なハンドリングになるからだろう。しかし、トレールを減らしたいなら、キャスターを立てれば良いのではないか?という疑問が湧いてくる(よね?)。

何故そうしないのか?これは想像だが、3つのケース毎に次のような理由からだと思う。

  1. 左端のロードスポーツの場合、ヘッドチューブの周りにはタンクやらエンジン補機類がゴチャゴチャあって、ハンドルを切ると干渉してしまう。だから少しでも隙間を開けるためにフォーク全体を前にずらした。
  2. 中央のオフロードバイクの場合、路面からの衝撃をスムーズに受け止めるため、フォークは寝かし気味にする(前から圧縮される方がよく縮む)。しかし、そうするとトレールが大きすぎて曲がりにくくなるので、オフセットでトレールを調整した。
  3. 右の自転車のリジットフォークはしなる(曲がる)ことで衝撃を吸収するので、ある程度曲がりやすいようにフォークを寝かし気味にするか、前に向かって反った形状にした。

というわけで、フォークアングルとオフセットは夫々別の理由で適正値が有り、結果的にトレールが適当な長さになるようデザインされるといったところだろう。

しかし繰り返すが、バイクの直進性(復元力)に寄与するのはトレールだけだ。そのトレールは転舵軸と前輪の接地点の位置関係によってのみ決まる。オフセットやフォークアングルは言わば途中の経路であり、それに惑わされてはいなけい。

※1:従って、「フロントフォークが地面に垂直なラインに対してどれだけ斜めになっているか」というヤマハの解説は間違いということになる(図はあってる)。まあ、多くのモーターサイクルはキャスター角とフォーク角がほぼ同じだとは思うが、原理の解説としては不味いと思うのだが・・・・

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