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ピアノの歴史2【ピアノ誕生】

【公開】2013-10-28 【修正】2016-01-08

(※2013-12月に大幅改定しました)

ピアノ以前の鍵盤楽器で説明したように、チェンバロは手動で音色や音量を「切り替え」られますが、個々の音の大小をキータッチでコントロールすることは出来ません。つまり、ベロシティーコントロールをキャンセルしたデジタルピアノのように、無表情な演奏しか出来ないのです。

一方、クラビコードはキータッチで音量を変えられますが、どっちか言うと家庭向きで、演奏会には絶対的な音量が不足していたようです。ということは、ダイナミックレンジも小さいわけで、実際Youtubeなどで聴いてもさほど強弱が付いてるようには聴こえません。音色もやや弱々しく、サスティーンも短めです。

よって、チェンバロのような音量と張りのある華やかな音色を持ち、更に演奏に強弱を付けられる鍵盤楽器があったらなあ、というニーズが当時あっても不思議ではありません。

ピアノの誕生

クリストフォリ

そこで登場したのが、史上最初のピアノです。名付けて「クラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ」。意味は「弱い音(ピアノ)も強い音(フォルテ)も出るチェンバロ」だそうです^^;もう機能そのままで何の捻りもない名前ですが、それが後に「フォルテピアノ(又はピアノフォルテ)」に短縮され、最後に「ピアノ」と呼ばれるようになったというわけです。

クリストフォリ発明者は17-18世紀のイタリアのチェンバロ製作者クリストフォリ。一見不気味だがどことなくファニーな顔つきのこの男、ただの楽器職人じゃありません。あのメディチ家の王子が旅行先で名声を聞きつけ、乗り気じゃない本人を「うちに来たくなるようにする」と破格の条件でスカウトしたと言います。

丁度、メディチ家の所蔵楽器の管理(整備)責任者が亡くなったばかりだったので、クリストフォリがその後任となりました。しかし彼が単なるメンテナンス要員で終わるはずもなく、楽器クリエーターとしての才能を発揮しました。オーバルチェンバロというユニークな楽器も製作してます。

ではクリストフォリが発明したピアノとはどんなものなのか? オリジナルの楽器は世界で3台ほどしか現存しないそうですが、下は河合楽器が21世紀に製作したクリストフォリのレプリカです。

「強弱をつけられるチェンバロ」というだけあって、チェンバロに近い音ですね。一方、強弱はあまりついてないように聞こえます(曲や演奏方法にもよるのでしょうが)。

ハンマーアクション

クリストフォリピアノはケースのサイズや弦の長さはチェンバロとほぼ同じ。弦を太くしテンションを上げた分やや頑丈にはなっていますが、基本構造はほぼチェンバロと同じです。ただ決定的に違うのが弦に振動を与える仕組み、ハンマーアクションです。ピアノの発明=ハンマーアクションの発明と言っても過言ではないでしょう。

ご承知の通り、ピアノは弦を叩いて音を出す楽器で、その意味ではダシルマー(スティックで弦を叩く楽器)と発音原理は同じです。ダシルマーの演奏者はスティクを柔らかく持ち、弦を叩いた反動でスティクが跳ね返るように演奏していますが、この動きを鍵盤を押しただけで実現するのがピアノです。

クラビコードも鍵盤を押して弦を叩く楽器ですが、前回説明した通りキーを押すと反対側の金属片(タンジェント)が弦を打つだけの単純構造です。キーを押したままだと弦に触れたままですが、薄いタンジェントがギターのフレットの役割をするので、音が持続します。ただ発音原理がギターのレフトハンド奏法なので、弱くシャンシャンした音しか出ません。

一方ピアノは、ハンマーは弦を叩いた後にすぐ離れないと音が止まってしまいます。しかし、音が鳴った瞬間に演奏者がキーを戻して音を持続させるなんて面倒なことはやってられません。つまり、チェンバロと同様に、キーを押し続けると音が持続する仕組みが必要で、これこそがハンマーアクションなのです。その構造を下の動画で見てみましょう。

  1. キーを押すと、キーから上に突き出た棒(ジャック)が、その上の中間レバーを(コブの部分に触れながら)押し上げる。同時にダンパーも持ち上がり弦から離れる。
  2. 中間レバーが持ち上がると、その先端がハンマーを根本付近を押しながら持ち上げる。これでキーのストローク(10mm程度)は6-7倍に増速されハンマーヘッドに伝わる。
  3. ハンマーヘッドは加速され、弦に当たる直前にジャックが中間レバーのコブから外れる。ハンマーが弦に当たる瞬間は慣性力によって運動しており、中間レバーやその下のキーからは離脱している(エスケープメント)。
  4. 重力及び弦で跳ね返ったハンマーは下に降りてくるが、跳ね上がり再び打弦しないように、キーから生えたフエルト付きのアーム(バックチェック)でハンマーヘッドを抑えている。
  5. キーが元の位置に戻ると、ジャックが再び中間レバーのコブの頂点付近にセットされ、再打弦が可能な初期状態に戻る。同時にダンパーも降りてくるので、音は止まっている。(よく見ると、ジャックが確実のコブの下に回りこむように、板バネで向かって左にテンションが掛かるように取り付けられている)。

ポイントは、ハンマーを押し上げていたジャックが打弦の直前に外れてしまうこと(梯子を外す)。そして、発射されたハンマーは、弦に当たって再び降りて来た際、発射地点よりかなり下まで落ちることです。

これにより、キーが押されたままでもハンマーは弦に触れたままにはならず、また2度打ちすることもなく一撃離脱できるわけです。ピアノのキーを押していくと重くなっていきますが、底の直前くらいで急に軽くなります(レットオフ)。これはハンマーが発射されてその分の重量が無くなったからです。

ただそこから再び打鍵する場合、先に降りてしまったハンマー及び中間レバーを再び上昇させるには、キーも戻し切ってアクションのすべてを初期状態に戻す必要があります。ということは、浅いストロークで素早く連打する事は出来ません(それを可能にする仕組みは後世に発明されます。ただしグランドピアノのみ)。

それを除けば、クリストフォリの発案した突き上げジャック、エスケープメント及びバックチェックと言う仕組みは、現在のピアノにほぼそのまま受け継がれています。実はクリスとフォリの死後、ピアノのアクションはより簡略化されたものになり、ある意味一旦退化しますが、世紀を跨いで復活するのです。その意味で、クリストフォリのピアノは時代を100年近く先取りしたものであり、正に「ピアノの父」と言った感じです。

弦とハンマー

チェンバロに比べて太い弦を高いテンションで張ったのは、弦が打撃に耐えられる為の措置と言われています。ただ、これは私の想像ですが、チェンバロの弦をそのまま使うと切れてしまうというよりは、太めの弦を強めに叩かないと音量が小さかったのではないでしょうか。

その理由は、柔らかいハンマーヘッドがインパクトのエネルギーを吸収してしまうからだと考えられます。上のハンマーアクションの図にあるように、ハンマーヘッドは紙をロール状に重ねて糊で固めたもので、弦と接触する部分にはバックスキンが貼ってあります。これだと、鉄片で叩くクラビコードは勿論、現在の圧縮フェルト+木の芯と比べても、かなり撓みが大きそうです。

そして、弦のゲージが太くなりテンションが上がったということは、楽器のケース(フレーム)にかかる荷重も増えます。そうすると、ギターのネックと同じで響板が反っていき、最悪弦と接触してしまいます(チェンバロでも時々起こっていたそうです)。

これを回避するためには、響板も梁も分厚く全体を頑丈にすれば良いですが、それでは多分あまり鳴らない楽器になってしまうでしょう。そこで、クリストフォリは弦のテンションを受け持つ部分と響板を構成する部分の2重構造にしました(もっとも彼はチェンバロでもこの構造を採用していたようですが)。この発想は正にモダンピアノの鋳鉄フレームと木の響板の構造と同じですね。

バッハとピアノ

クリストフォリは1700年には最初のピアノを完成させたようですが、その時JSバッハはまだ15歳です。しかし、「ビアノの父」と「音楽の父」は残念ながら出会うことはありませんでした。その画期的な「新型チェンバロ」は、周辺国はおろか本国イタリアでも長らく普及しなかったのです。理由はとてつもなく高価だったから・・・

そりゃそうでしょう。チェンバロに比べて桁違いに複雑なメカ、工作精度も調整能力も格段にハイレベルなものが要求されます。クリストフォリの画期的なアイデアに対して、当時の生産技術が追いついていなかったと言えます。また市場も、そんな複雑怪奇でやたら高価な新型チェンバロの真の価値を理解するには、もっと時間が必要だったのでしょう。

クリストフォリは晩年までピアノの制作と改良を続け、1731年に76歳で他界します。しかしその後、彼の名声は急速に失われ、イタリアでピアノが発展したという話は殆どありません(多分メディチ家の没落とも関係がありそう)。

代わりに台頭したのが、イタリアやフランスに比べて音楽的にはやや後進国と見られていたドイツでした。マッフィーニというイタリア人が、クリストフォリピアノについての詳細なレポートを残しており、それを基にドイツのオルガン製作者ジルバーマンがレプリカを制作しました(一時期はピアノはシルバーマンの発明だと思われていたようです)。

シルバーマンは元々オルガン製作者だけあって、JSバッハとも付き合いがありました。そして、バッハが最初に触れたピアノもシルバーマンが1730年代に作ったものでした。しかしバッハは演奏した結果、「タッチが重く高音が弱い」とダメ出ししています。多分、シルバーマンもクリストフォリのコピーを手探りで制作していたのでしょう。

その後シルバーマンはピアノの改良を重ね(クリストフォリの実機に触れたのが大きかったとも言われる)、当時のドイツの名君フリードリッヒ大王が気に入って大人買いしたそうです。時はクリストフォリの死から16年後の1747年、JSバッハの次男エマニュエルがそのフリードリッヒ王に宮廷音楽家として仕えていました。そして、息子の家に孫の顔を見に来ていた62歳のJSバッハ(当時「老バッハ」と呼ばれていた)が、大王に呼び出されて彼の楽器を試奏したと言います。

王:「どうだ爺、これが俺の新作楽器コレクションだ。」

老バッハ:(このおっさんどんだけ楽器持ってるんだよ)「ほう、素晴らしい楽器たちですなあ。」

王:「そしてこれが噂の新型チェンバロだ。ちょっと弾いてみ。」

老バッハ:(うわ!これシルバーマンの変なチェンバロやん)「ほほう、ではお言葉に甘えて・・・」

王:「弾き心地はどうよ?」

老バッハ:(おっ、前よりだいぶマシになってる)「これはなかなか素晴らしいですなあ」

というやり取りがあったかどうか判りませんが^^;JSバッハは死の3年前に弾いた改良版シルバーマン・ピアノにはかなり満足したようです。そして死ぬまでにさらなる改良に手を貸したそうですが、残念ながら彼の寿命は殆ど残っていませんでした。バッハがもっと早くピアノに出会っていれば(願わくばクリストフォリのオリジナルに)、彼の音楽もその後のピアノの発展も大分変わっていたのではないでしょうか?

演奏者のタッチで音が変わるのか?

ピアノの歴史から少し脱線しますが、キーの押し方(叩き方)によって、ピアノの音色が変わるのか?という論争が昔からあるそうです。変わるという考えに立って、キーを押すときの指の形をこうすればこういう音が出る、と言った講釈が存在したようです。しかし、上述のハンマーアクションの仕組みを理解していれば、そんな事はあり得ないのは明白でしょう。

例えばギターなら、弦の弾き方やピックの素材や形状などによって様々な音色を出すことができます。しかしピアノの場合、演奏者が制御可能なのは(ベダル類は別として)ハンマーの発射速度のみです。一旦発射されたら演奏者は何もできません。ハンマーの素材や形状は勿論、弦に当たる位置も角度も毎回同じですから、発射速度で全てが決まってしまいます。

勿論、ピアノは打弦速度によって音色(倍音分布)もかなり変わりますが、それは常に音量(振幅)とセットで変わっています。平たく言って、音が大きければ派手で硬い音色、音が小さければ地味で丸い音色です。つまり「音量とは別のパラメータとして、音色だけを変化させる事は出来ない」というのが正確な表現です。

それにピアノは、打弦した瞬間から音量と同時に音色も急激に変わっていきます。打弦直後の音は硬く華やか(倍音成分が多い)で、その後は柔らかく地味(倍音成分が少ない)になっていきます。ということは、スタッカート気味に早くキーを離すと硬い音の部分だけを使うことになり、逆にレガート気味にキーを離すのが遅いと柔らかい音が残る、という意味で「音色」が変わると感じるかも知れません。

もっと言えば、単音ではなく複数の音で考えると、「音色」と呼んでいるものの要因が更に増えます。例えばガーンとコードを鳴らすとき、全ての音を全く同じタイミング、全く同じ強さで弾くという事はあり得ません。ですから、発音タイミングのズレ具合や構成音の強さのバラつきによって、トータルの「音色」を制御しているとも言えそうです。

というわけで、ピアノの演奏者がコントロール出来るのは、キーを押すタイミングと強さ、そしてキーを離すタイミングだけです(あとはペダルで楽器全体の音を切り替え)。それでも、オルガンやチェンバロなどの鍵盤楽器は音の強弱(及びそれに伴う音色変化)すら付けられなかったのですから、ピアノの登場によって表現の幅が格段に増したことは間違いないでしょう。

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