バイク用塗料の基礎
○公開:2014-10-29 ○修正:2014-10-29
当サイトではなくEV情報サイトに記載したが、2010年にカブのエンジンをモーターに換装した「デンキカブ」を製作した。で、このマシンのヴァージョンアップ版として、フェンダーカット/バーハン化→車体色の塗替えを行った。
元々、紺色の車体とオフホワイトのバッテリーケースがマッチしていない事が不満だったが、車体色が好みではないのでこちらを変更することにした。僕の好きな色は低彩度で高明度、つまりパステル系なのだ。具体的にはモスグリーン、ライトブルー、ベージュ、グレーあたり。高明度ではないが、ミリタリー系でオリーブやスモークブルーなんかも良い。
塗料の種類と特徴
スプレーガンが良いのは判っているが、道具を揃えるのに何万円もかかってしまう。製作コストの低減も電動カブの重要なコンセプトなので、必然的にスプレー缶しか残らない。幸いネット情報は沢山あるので、取り敢えず塗料の種類と特徴について判ったことを纏めてみた(上に行くほどグレードが高い)。
種類 | 長所 | 短所 | 製品例 |
---|---|---|---|
ウレタン樹脂 |
強靭な塗膜(耐久性、耐アルカリ性、耐油性、耐水性、耐溶剤性に優れる)。非常に深いツヤが出る。ベースの塗料を侵食しない。ABSやFRPにも塗れる。硬化前はドロっとしていて、アクリル系より塗りやすいという。 | 値段が高い。選べる色が少ない。硬化剤を混ぜた後は12時間(24時間)以内に使い切る必要がある(試行錯誤が出来ない)。 | |
アクリルシリコン |
保色性、耐水性、耐酸性、耐アルカリ性、耐油性に優れる。下地への密着力が強い。耐候性(紫外線に対する強さ)については、ウレタンより上。 汚れが付着しにくい。塗膜性能は限りなくフッ素樹脂塗料に近い。その割に、アクリル樹脂系とほぼ同額。トルエン・キシレンを含まない。 |
通常アクリル系よりカラーバリエーションが少ない。フッ素樹脂塗料は亜鉛鍍金面に不適。プラスチックに不適。 ただし、水性はアクリル、スチロール、硬質塩ビ、ABSに塗れるが屋外使用には不適?。 |
|
アクリル・ラッカー |
保色性、耐水性、耐アルカリ性に優れる。下地への密着力が強い。 電気絶縁性がある。製品やカラーバリエーションが最も多彩。比較的安価。 |
皮膜性能はウレタンやアクリルシリコンより劣る(特に耐候性が問題)。プラスチックに不適。 | |
アクリル樹脂 (水溶性) |
保色性、耐水性、耐アルカリ性、耐油性に優れる。カラーバリエーションが多彩。比較的安価。 ABSや硬質塩ビ等に塗れる。 | 皮膜性能はウレタンやアクリルシリコンより劣る。アクリルラッカーと比べてもやや劣るようだ。 |
参考:外装工事店のサイト
ウレタン塗料
バイクのDIY塗装界隈では最強・最良の塗料と歌われている。つややかで分厚い皮膜を形成し、ガソリンにも強いという。しかし問題は、アクリル塗料の3倍という価格だ(300mlで約1800円~)。また、色の選択肢が非常に少ないのも致命的で、個人的にはどのブランドを見ても気に入る色は無かった。
アクリル塗料で色付けをして、上からウレタンクリアで仕上げる方法もある(バイクのDIY塗装ではよく見られる)。しかしこれは2重投資である上に、ウレタン塗料の高価さとアクリル・ラッカーの樹脂不適合という、双方の欠点を併せ持つ手法となる。
ウレタンに限らずクリア色は元来、メタリック色の仕上げ用であり(無いと艶が出ない)、ソリッドカラーには不要である。また、傷防止の観点からもカラーウレタンだけでOK(ソリッドカラーにウレタンクリアは無駄に艶っぽい)という。さらに、電動カブの場合はガソリン耐性を気にする必要もない。
ただ、ウレタン塗料は樹脂パーツ(ABS等) にも使えるので、1種類の塗料でフレームにもサイドカバーにも対応できるという利点がある。なのでもし、PPやPE(後述)に塗布する必要がなく且つカラーバリエーションで事足りるなら、ウレタン塗料一種類で仕上げるのがベストだろう。
アクリルシリコン
正確にはシリコン変性アクリルというらしく、耐候性についてはウレタンより上という(フッ素樹脂塗料:20年>アクリルシリコン樹脂:15年>ウレタン樹脂:10年> アクリル樹脂:5年)。製品価格は一アクリルラッカーと同等かむしろ安い位で、コストパフォーマスは最高だ。
もっともこれは、主に住宅外壁用としての評価であり、バイク・自動車用としては、耐熱性や対ガソリン性が問題になるのかも知れない。だから製品には自転車用と書いてあるが、電気バイクにはこれで十分だ。ただ、カンペから出ている水性アクリルシリコンは油性とはニュアンスが異なる。自転車用とはなっていないし、直接風雨にさらされるような場所には適さないような書き方だった。
カラーバリエーション的には、ウレタンよりは大分マシとは言え、アクリル系ほど多彩ではない。特にカンペ製品はホームセンターに色見本が無い上に、ネットにも殆ど画像がない。また、原理的には樹脂には使えないので、同色に塗りたい場合は樹脂用プライマーを下に塗布する必要がある(アクリルラッカーも同様)。
アクリルラッカー(油性)
カラーバリエーションがダントツに豊富。カー・バイクの純正色から、全く関係ない非純正色まで何でもある。ただ、艶や耐水性・耐油性と言った要件は満たしているものの、耐候性や耐酸性など全般的な皮膜の強さにおいてウレタンやシリコンより劣る。よって、アサヒやカンペの製品では野外・鉄部用とはなっているが、自動車は勿論、自転車用とも書いていない。もっとも、ホルツやソフト99がクルマの補修の上塗りとして販売しているところを見ると、最低限の耐久性は有していると考えられる。
価格に関しては、ブランドによって結構差がある。同じ店(コーナン)での300mlスプレーの価格は、アサヒペンのマッドカラーが680円、ソフト99はソリッドカラーで980円、メタリック/パールマイカで1280円する。ホルツやデイトナのはもっと高かったような^^; 因みに、カンペハピオのアクリルシリコンは480円しかしない。
アクリル樹脂(水性)
アクリルシリコンやアクリルラッカーにない利点は、プラスチックに直接塗れる事(PPは多分ムリ)。また油性のように溶剤の匂いがきつくなく、多分体にも良いだろう。
ただ、溶剤の違いだけなら、乾燥してしまえば油性も水性も同じ状態になりそうだが、実は少し違うらしい。水性は水分が蒸発して残った成分が凝固するのに対し、油性は溶剤が蒸発する過程で空気中の酸素が吸着、樹脂の連結を取り持つことで塗膜を形成するという。参考:アサヒペンのビデオ水性塗料と油性塗料の違い。これを見ると何となく油性の塗膜のほうが強靭に思える。実際に商品の用途説明では、油性アクリルと微妙にニュアンスが異なっている。
プラスティックの塗装
上で触れたが、樹脂(プラスティック)パーツへの塗装はかなり曲者で、基本的にはラッカー系(油性溶剤)塗料は使えないと考えたほうが良さそうだ。プラモデル程の肉厚になると、ラッカー塗料でABSが溶けたという話があるらしい。
カブの樹脂部品
ここで、カブの樹脂パーツの材質を見て行こう。
サイドカバー
先ずサイドカバーはABS樹脂。これはパーツの裏に明記してあったので間違いない。
レッグシールド
僕の場合、レッグシールド無しで買ったので、現物はない。そこで、同じ素材と思われるトップカバーをチェックした所、何も書かれていない。
ネット検索すると諸説あって(^_^;)ウィキペディアはポリエステルだと言っているが、Y!知恵袋ではポリカーボネイト(PC)だと断言する人やポリプロピレン(PP)じゃないかという人が居る。モノタロウの製品はPPとの事(フロントフェンダーも同様)。ただし、モノタロウのサイドカバーもPPというから、オリジナルに関係なく何でもPPかいな?という疑念も残るが。
私見としては、レッグシールドは割れる場合もあるのでPC(最強の樹脂)の線はないと思う。ポリエステルも実際には何種類かあるが、PET以外はマイナーな感じなので多分違うだろう。という訳で、多数決によりPPを暫定ポールポジション(まさしくPP!)とする。
フロントフェンダー(追記)
フロントフェンダーもレッグシールドと同じ素材だと勝手に思っていたが、先日車体から外して裏を見てみると、「>PE< PP」という表記が!これって、PE(ポリエチレン)メインでPPも含有しているという意味なのか?(そういう場合は普通PEにアンダーラインの筈だが) 何れにせよ、PEが主役なのは間違い無いだろう。
ではPPとPEは何が違うかというと、勿論分子構造が違うのだが、特性としては共通点が多いようだ(参考:OK Wave) 。相違点も幾つかあるが、中でも乗り物にとって重要と思われるのは「PPは耐候性がPEよりかなり低い」という点。それじゃあレッグシールドは紫外線とかでボロボロになってしまうのか?
プラスチックを燃やして種類を確認する方法もあるらしいが、そこまでは未だトライしていない(勿論、複合材料なら両方の反応が混ざるので見分けにくい)。ただ、そこに記載された性質と用途を見ると、フェンダーやレッグシールドに使われるのは、HDPE(ポリバケツやポリタンク)かPPのコーポリ(洗濯機の脱水槽)ではないかと想像する。
洗濯槽に耐候性は必要ないので、レッグシールドがPPだと断定するのは未だ早いような気がしてきた。まあ、僕のケースでは使わないので構わないが、持ってる人は現物の裏を見れば一発で判るので確認して欲しい。
塗料の種類と対応プラスチック
樹脂パーツの素材が「ほぼ」確定したところで、上述の塗料がどのプラスティックに対応しているか確認した。
- アサヒペン・ウレタンスプレー:硬質塩ビ、FRP、ABS
- イサム・エアーウレタン:フェノール樹脂、ポリエステル、ポリアミド、硬質塩ビ、FRPなど
- デイトナ・耐ガソリンペイント:FRP、硬質塩ビ、ポリカーボネイト、ポリエステル、ポリアミド、フェノール樹脂
- ソフト99・ウレタンクリア:記載なし
- アサヒペン・水性多用途:アクリル、硬質塩ビ、ABS、スチロール
上の3つは同じウレタン塗料なのに、何故か使える素材が違う。アサヒペンの表記はかなり省略している可能性があるが、他の2つも微妙に違う・・・ABSはアサヒのウレタンはOKだが、次の2つはNGなのか?
一方、PEやPPはどうやら全滅(ToT まあこの2つは、塗料は乗らないし接着剤もくっつかない事で有名らしい。しかし、諦めるのはまだ早い!プラスチック用プライマーというのがあって、樹脂パーツにこれを下塗りすることで、その上にほぼどんな塗料も塗れるというのだ(価格は100mlで700-800円)。
適合する樹脂は「ポリプロピレン、ナイロン、ABS、FRP、硬質塩ビ、アクリル、PET」、しかしポリエチレンは適合しないとなっている!(泣)。フェンダーがPPだったらまだ救われたのに、何故最悪のPEなのだ?
アクリル塗料を樹脂パーツで実験
実は既にアクリルラッカーを買って、使う予定がない幾つかのパーツで試してみた。選んだのはアサヒペン・クリエイティブカラースプレーの中からモスグリーン(クリア)。価格は300mlで648円。
先ずPPの代表として、トップカバー(レッグシールドに繋がって前方にあるカバー)。最初は600番ペーパーで足付し、洗剤で洗って乾燥後塗料を噴射!すると、塗装面がザラザラで何度も吹いているのに艶が出ない(フラットにならない)。真夏の高温化で塗料が固まったせいかと思ったが、同条件で金属パーツに吹いたところ、もっと少量で艶が出た。
数日乾燥後、#1000ペーパーで磨くともっとスムーズな感触になった。そして、その上から更に塗料を噴いてみると、また元のザラザラ。溶剤がPPを侵食しているのだろうか?さらに一週間後、完全に乾燥した状態で爪で擦ってみると、剥がれて地肌が出た。という訳で、PPにアクリルラッカーは不適と証明された。
次にABSの代表として(明記はされてないが多分そう)、ロアカバー(トップカバーの下のパーツ)で試した。これはボディと同色の塗装が施されているが、#1000ペーパーで表面がざらつく程度の足付けを行った。塗装の結果は、PPより少ない塗料で艶が出た。僅かなザラつきはあるが、PPの場合より格段にスムーズ。
数週間後、爪で引っ掻いてみたが、爪が立たず塗装は剥がれなかった。ABSと言えどアクリルラッカーは不適のはずだが、元の塗装がサフェーサーになって塗料が乗ったのだろうか?すると、アクリルシリコンの場合も、このように一応塗れてしまうのだろうか?
塗料選択の実例
PP部品についてはこの際使用しないものとし(使用しても別種・別色)、残る鋼板(フレーム)とABS樹脂(サイドカバー)そしてクリア仕上げに使う塗料の組み合わせを考える。
番号 | 鋼板部品 | ABS樹脂部品 | クリアコート | 考えられる問題 |
---|---|---|---|---|
1 | ウレタン | ウレタン | なし | 気に入った色がない。高コスト。 |
2 | アクリルシリコン | アクリルシリコン | なし | ABSとの相性が不明。気に入った色があるか不明。 |
3 | アクリルシリコン | 樹脂用プライマー+アクリルシリコン | なし | 若干高コスト。気に入った色があるか不明。 |
4 | アクリルラッカー | アクリルラッカー | なし | ABSとの相性及び、全体の皮膜強度が若干不安。 |
5 | 水性アクリル | 水性アクリル | なし | 全体の皮膜強度が不安。 |
6 | アクリルラッカー | 水性アクリル | なし | 若干高コスト。全体の皮膜強度が若干不安。 |
7 | アクリルラッカー | アクリルラッカー | ウレタン | かなり高コスト。ABSとの相性が若干不安。 |
8 | アクリルラッカー | 水性アクリル | ウレタン | 最も高コスト。 |
9 | アクリルラッカー | アクリルラッカー | アクリルシリコン | 割りと高コスト。ABSとの相性が不明。 |
10 | アクリルラッカー | 水性アクリル | アクリルシリコン | 高コスト。水性アクリルとシリコンクリアの相性が不明。 |
という訳でどれも一長一短だが、ウレタンクリアは高コストで脱落。シリコンクリアも、まんべんなく悪いので多分無い。残るはアクリルシリコンの色見本だなあ。それでダメなら、アクリルラッカーだけという線に落ち着きそう。
アクリルラッカーVSアクリルシリコン
結局、アクリルシリコンの色見本が何処を探しても無いので、1缶買ってみた。カンペハピオのシリコンラッカースプレーから「スプリンググリーン」(420mlで598円)。
初めて見るその色は・・・何と缶のキャップそのまんま。スプリンググリーン(萌黄)というより、普通のグリーンをそのまま薄くしたようなライトグリーン。例えて言うなら信号の青、何だか軽い感じ。
金属にも塗ってみたが、先のクリエイティブカラースプレーよりさらっとしてて、ダマにならず広がりやすい感じ。トルエンフリーのせいか、匂いも嫌な感じではない。なので、塗料としての扱いやすさはシリコンラッカーの方が上だと思う。
アクリルラッカーの致命的欠点
色を取るか?性能を取るか?悩んでいたある日、ある実験を思い立った。パーツクリーナー等として売られている有機溶剤を塗装面(完全乾燥)にふりかけてみたのだ。結果はご覧の通り。何とアクリルラッカーは簡単に剥がれてしまったのだ!
一方、アクリルシリコンの方は、同じウエスを使ったためラッカーの色が移っているが、塗装面そのものには変化は見られない。これが、自転車用と銘打っているか否かの違いだったのか!チェーンの掃除をしただけで、スイングアームの塗装が剥げてしまうようでは話にならないからね。
それで皆、ラッカーの上からウレタンクリアで仕上げるわけか。しかし、こんなに簡単にラッカーが剥がれてしまうなら、攻撃性が低いウレタン塗料と言えども上から塗って大丈夫なのだろうか?と思って色々調べていたら、こんなページがあった。曰く;
「ラッカー系塗料は塗膜になった後も組織が変化しないので溶剤に触れると溶け出してしまいます、つまり基本ラッカー塗料の上にはウレタン塗料を直接塗れないという事になります。」
えええ~!ダメじゃん。皆大丈夫なのか?何れにせよ、僕は危険なアクリルラッカーは使わない事にした。惜しいけど、モスグリーンとはお別れ。